DXへの取組み

2023年11月17日
明豊ファシリティワークス株式会社
代表取締役 大貫 美

当社における情報処理技術(デジタル)活用の
目的の変化と顧客への価値提供について

(1)企業経営の方向性及び情報処理技術の活用の方向性の決定

当社は1980年に創業し、当初は窓貼フィルムの貼付工事や小規模の建築工事に従事(1989年建設業許可取得)し、その後オフィスの設計・PMを経て、今では大規模な建設プロジェクトのCM(コンストラクションマネジメント=発注者支援)事業をメインに営んでいる。

一般的な建築工事は、規模の大小にかかわらず、発注する施主が工事全体の供給者である元請け会社との間で、工期と工事総額を定めた工事請負契約を締結するもので、施主は、元請工事会社から下請工事会社への発注内容や発注金額等について関与しない商慣行である。下請け工事費を下げれば元請け会社の利益が上がる環境の中で、当社は、施主である顧客との信頼関係構築を最大の経営課題とし、当社が元請け工事会社となった場合に、当社から下請け工事会社への発注について、発注先の選定、発注金額(下請け工事原価)の確定等、建設工事のプロセスと情報について、顧客に全てを開示・共有する「明朗会計方式」を、企業経営の方向性として採用した。

明朗会計方式では、顧客の建設投資(プロジェクト)に関する情報を可視化して顧客と当社が共有し、当社が顧客の意思決定を支援する手段として、当時デジタル揺籃期であった情報処理技術を積極的に活用することを決め、自社の建築士や設備技術者、プロジェクトマネージャーなどプロの知見や経験を取り入れた「プロジェクト管理システムであるMPS(=Meiho Project Management System)」を2001年に自社開発した。プロジェクト情報をデジタル化して顧客と共有し、顧客の品質、工期、コストなどに関わる意思決定を支援する発注者支援事業への転換を方針として定めた。

当社はこのような経緯を経て、顧客から当社が得るフィーを収益の源泉とするフィービジネスへ転身を図った。

当時の我国は「知らないことにお金を払わない」特有の文化の中で、フィービジネスで利益を会社として計上することは難しいと考えられていたが、当社ではMPSによって顧客に提供する価値をデジタル情報として可視化・定量化することで顧客の信頼を獲得することと、併せて、当社メンバー一人ひとりや個々のプロジェクトチームの生産性を定量化し、全てのプロジェクトメンバーがプロジェクトの経営者となって、生産性を向上できるようにする仕組みである明豊マンアワーシステム(AMS=Activity Management System)を自社開発し、MPSと連動させることで、フィービジネスへの転換に成功した。同時に社員の働き方もデジタル化し、完全なペーパーレス化を実現した。その後、テレワークとデータ活用推進の仕組みをはじめ社内のさまざまな仕組み(システム)構築についても、自社開発してきた。

2003年には社内のデジタル化が全社で一気に進み、テレワークの全社的普及と、「プロジェクト管理システム+マンアワーシステム」によるプロジェクトのDX化によって、顧客に寄り添ったデータベースの積み上げや、顧客への分かり易い成果物(価値)の提供が効率的に出来ている。

デジタル活用の前提となる社内ペーパーレスの徹底、システムの利用による情報の可視化・一元化、社員の移動を少なくする在宅勤務やシェアオフィスの積極的活用などの社内ルール改革には、創業者である現代表取締役会長が先頭に立って全社員の理解と実践の徹底を図り、いずれも早期に実現している。これにより、個々のプロジェクトの目的実現手法や業務プロセスなどのDX化を通じて、社員が効率的に働き、同時に顧客に提供するサービスの価値への意識が高まり、一気に顧客満足度を向上させることが出来た。

当社は、当社のDX経営(IT経営)の実態を、経済産業省が主催する表彰制度「攻めのIT経営 中小企業百選」にエントリー(2015年10月、攻めのIT経営 中小企業百選 受賞。)することを通じて、当社のDX経営の水準を向上させることが出来ている。

今では、当社のテレワークの実態及び情報処理技術の活用状況が社会に認知されるようになり、地方での講演会などを通じて、更に当社のデジタル活用水準を向上させることが出来ている。

当社社員は、テレワーク及び情報処理技術の活用による効率化、並びに当社独自の明朗会計方式による発注者の建設投資支援を通じて、当社が社会的な貢献を果たしていることを強く実感しながら、全社一丸となって日々企業価値を向上させている。

(2)企業経営及び情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)の決定

企業経営の具体的な方策(戦略)として、次の事項を決定した。

  • 創業後間もない時期から社内に浸透していた明朗会計を、2003年頃に企業理念として改めて公開し、今では企業風土になるまで徹底させている。
    • フェアネス
    • 透明性
    • 顧客側のプロ
  • 人材の採用において、企業理念への共感が高いことを採用の第1条件とした。
    そのうえで、高い専門性と豊富な経験を持つ優秀な人材を集めた。
  • 発注者からいただく報酬のみで事業を成立させるビジネスモデルとして「CM(発注者支援ビジネス)=フィービジネスへの移行」を2002年に社内外に宣言した。
  • フィービジネスの根幹を支える仕組みとして、MPS開発から2年後に、AMSを自社開発し、全社員のアクティビティを定量化することを開始した。
    AMSでは、各プロジェクトを担当する人材一人ひとりや個々のプロジェクトチームの生産性定量化を行い、社員が自らの行動を定量的に把握し、自らの成長と効率化による収益への貢献をプロジェクトの経営者として、主体的且つ定量的に把握できるようにした。この様に、個別プロジェクト情報や顧客、業務内容毎に可視化・共有し、上司がメンバーとともに常に効率化や発注者への価値の提供を語ることで、顧客満足度を落とすことなく収益性を上げる環境を構築した。
  • 生産性向上と価値提供の可視化による収益を原資として、社員の処遇を向上させた上で、企業として増益を目指すこととした。
    例えば、デジタル活用による効率化がもたらす「移動時間や残業時間大幅短縮」により残業代が削減される。当社はその削減分を社員に還元すること等で、効率的に働く社員の意欲を支えた。
  • 優秀な社員の処遇改善と、新しい人材を確保することを目的として、社員の平均年収を高い水準にすることを決めた。その結果、2021年度時点で社員の平均年間給与は1000万円を超えるまでになった。(上場企業約3700社のうち61位。引用:東洋経済オンラインhttps://toyokeizai.net/articles/-/660328)
  • 取締役及び社員に、就業に関する誓約書を用いて、企業理念に即した行動をとることについて約束事を明示し、毎年4月に、全取締役及び社員が内容を確認して更新することで、ルール遵守意識を常に高い水準で維持する取り組みを行っている。
  • 上場会社になることで当社の社会的存在意義を全社員に明確化し、世の中における当社の経営の透明性を高めることとした。

情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)として、次の事項を決定した。

  • 2001年、デジタルな働き方を支える環境と、データ活用の仕組み導入に着手し、建築や設備のプロを巻き込んだ方法によるプロジェクト管理システムを自社開発し、同時にペーパーレスの徹底と、全社員テレワークの導入を決定し、全社的な働き方環境整備に着手した。
    発注者の信頼獲得を容易にするプロジェクト管理システムMPSの内製化に着手した。
  • 2003年、働き方を自ら定量的に見直せる明豊マンアワーシステムAMSを内製化した。
  • 2007年、全拠点、全組織を対象としてISO27001の認証を取得した。
  • 2009年、社内に蓄積した膨大な情報をデータベース化し、データの加工と分析で、顧客への価値提供の可視化と働き方を効率化することを専門的に担う「データ活用推進室」を設置、現在は当社のDX主担当部門としている。
  • 2015年、厚生労働省が全国で主催する「テレワーク・セミナー」に講師として参加し、当社のテレワークの実態を説明することで、社会的にテレワークが普及することに貢献することとした(大阪、広島、高松、名古屋で講演)。
  • 2017年、中小企業庁委託事業、商工会議所主催「プラスITセミナー」に講師として参加し、当社のITの活用状況を外部に説明することで、当社の情報処理技術の活用状況を更に高めることと、受講企業のIT活用に貢献することとした(焼津、鳥取、府中、東京都で講演)。
  • 2019年、当社のテレワークの水準を更に向上させるため、「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に応募し、2020年に総務大臣賞を受賞した。
    2021年、情報システム自社開発のノウハウ及びデータ活用推進室によるデータ分析・可視化のノウハウを用いて、当社は顧客に対して、建設投資におけるDX支援サービス事業を開始した。(2021年度売上1.3億円、2022年度売上1.8億円)

① 戦略を効果的に進めるための体制

企業経営の戦略を推進するための体制として、各部門長をメンバーとする事業推進会議を1997年頃から運用を開始し、経営者と事業推進会議メンバーが協議し決定した各事項について、各部門での推進を部門長が責任をもって対応する。

社内DXを効果的に推進するための体制として、代表取締役とシステム担当役員とが連携を密にし、システム担当役員は、システム内製化を支えるSI部門について、開発機能と、運用保守機能を設け、一方でデータベース化した情報の活用について責任をもつデータ活用推進室を設け、社内DX化を推進する。SI部門とデータ活用推進室とが連携して、今でも日々社内外利用者の声を聞き、システムの開発と改良を行い、データの可視化共有を図っている。

当社社員は、「建築や設備のプロとともに開発した自らの情報システム」を通じた顧客へのサービス提供について、社会貢献に役立っていることを認識し、日々活動している。

当社メンバーは、このような事業への取組と執行体制について心強く感じている。

② 最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示

システム担当役員は、SI部門及びデータ活用推進室に対して、内製化への専門的な支援ができる高度な外部の支援サービスを利用させる。

DX推進、情報の可視化によって高まる情報セキュリティリスクについては、全社的にISO27001の認証を受けることと、常に高いリスク対応環境を整備することにしている(2007年に全社で認証済み)。

(3)戦略の達成状況に係る指標の決定

企業価値向上の指標として、以下2点を定める。

当社が提供する価値への顧客の評価を確認する指標として、毎年全受注案件に占める既存顧客からのリピート割合を、 概ね60%とし、それを超える水準を目指す。
実績は決算説明資料で公開する。
実績:決算説明資料 P18 既存顧客受注割合
https://www.meiho.co.jp/ir/presentation/2212151.pdf

当社の生産性向上を確認する指標として、全社での直接1時間当たりの売上粗利益について、2013年3月期を100として、その後の10年間で概ね150%以上の水準を目指す。

  • 顧客へのサービス提供価値向上による単価UPと、効率化による生産性UPを両立させることで、技術者の増員計画や新入社員の研修期間中の生産性ダウンを吸収した上で、将来に向けての体制強化と処遇改善を両立させる。
  • 20年間を超える社内DX活用によって、顧客への高いサービス品質提供(価値向上)に伴う競争力の向上や、効率化による残業時間削減(コスト削減)を実現させ、これらによる収益を逐次社員に還元することで、全社員のモチベーションを向上させ、増員に伴う一時的な生産性ダウンを吸収した上で、体制の強化を着実に実現した。

実績は決算説明資料で公開する。
実績:決算説明資料 P31 生産性の推移
https://www.meiho.co.jp/ir/presentation/2212151.pdf

(4)実務執行総括責任者による効果的な戦略の推進等を図るために必要な情報発信

当社は実務執行統括責任者を代表取締役社長と定め、社長が、事業推進会議メンバーを通じて、全社員の企業理念や経営戦略のへ理解と、決算説明資料等を解説し、下記の事項を定期的に社内外へ情報発信することで、効果的な戦略の推進を図る。

  • 企業理念や経営戦略を発信し、社内外への浸透を図る。
  • 戦略の指標の達成状況を常に定量的に把握した上で新しい戦略を発信し、全社員が進捗状況を常に共有する。
  • 上場企業として求められる適時開示の仕組みを用いて、企業収益の向上を社内外に発信し、当社が優秀な人材確保を目的として社員の処遇向上を優先して対応していることと同時に、当社を支えてくださる株主に対しても、適切な株主還元を当社が実施していることを伝え、数多くのステークホルダーからの信頼獲得に繋げる。
  •  当社のDX推進の知見を活かして顧客のDX化を支援することにより、顧客との絆を太くし、顧客の喜びを通じて社員のモチベーション向上を図り、投資家に対しても当社DX事業による将来の社会的な貢献を伝え、ステークホルダーからの信頼獲得に繋げる。

以上